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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)6514号 判決

原告 エンウエル・アパナイ

被告兼当事者参加人 グルスム・クルバンガリー

当事者参加人 アサド・クルバンガリー 外二名

被告 亡ムハメード・ガブドルハイ・クルバンガリー相続財産

主文

一  被告グルスム・クルバンガリーは、原告に対し、別紙物件目録(一)記載の建物について、所有権移転登記手続をせよ。

二  被告亡ムハメード・ガブドルハイ・クルバンガリー相続財産は、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の土地について、所有権移転登記手続をせよ。

三  参加人らの当事者参加申出を却下する。

四  訴訟費用中、原告と被告らとの間に生じた分は被告らの負担とし、参加によつて生じた分は参加人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

(一)  本訴請求の趣旨

1 主文第一、二項と同旨。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

(二)  参加請求の趣旨に対する答弁

1 参加人らの参加申出を却下する。

2 参加申立費用は参加人らの負担とする。

二  被告ら

(被告グルスム)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(被告相続財産)

1 本訴請求の趣旨に対する答弁

イ 原告の請求を棄却する。

ロ 訴訟費用は原告の負担とする。

2 参加請求の趣旨に対する答弁

イ 参加人らの請求を棄却する。

ロ 訴訟費用は参加人らの負担とする。

三  参加人

参加請求の趣旨

1  原告は、別紙物件目録記載(二)の土地(以下本件土地という)が、参加人らの後記表示の持分による共有に属するものであることを確認する。

2  被告亡ムハメード・ガブドルハイ・クルバンガリー相続財産(以下被告法人という)は、参加人らに対し、本件土地につき、相続を原因とする後記表示の持分による各所有権移転登記手続をせよ。

3  訴訟費用は、原告および被告法人の負担とする。

(持分の表示)

参加人グルスム・クルバンガリー 持分三分の一

参加人アサド・クルバンガリー  持分九分の二

参加人アニサ・ザイナシエフ   持分九分の二

参加人ナジヤ・アルマス     持分九分の二

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、東京都渋谷区大山町一番一六号にその事務所を置き、トルコ国籍を有する一八歳以上の在日トルコ人を会員とし、会員の民族的、歴史的、文化的、宗教的および市民的存在の保持ならびに高揚を目的とする権利能力なき社団である東京トルコ協会(旧称東京回教徒団体)の代表者会長である。

2  東京トルコ協会(以下トルコ協会という)は、一九三七年(昭和一二年)八月六日、山下亀三郎から、同人所有の本件土地を買受けた。

3  その後まもなく、同協会は、右本件土地上に、別紙物件目録記載(一)の建物(以下本件建物という)を建築した。

4  ところで、本件建物は落成後も未登記のまゝであつたが、一九五四年(昭和二九年)四月二一日、被告グルスム・クルバンガリー(以下被告グルスムという)が、同人名義で所有権保存登記をしている。

5  また、本件土地については、一九三七年(昭和一二年)八月六日、亡ムハメード・ガブドルハイ・クルバンガリー(以下亡ムハメードという)名義で所有権移転登記がなされているが、それは、本件土地は、トルコ協会が、会員や日本財界人の寄附を得て、本件建物および東京回教寺院等の敷地として買い受けたものであり、元来その構成員の総有に属するものであるところ、同協会には法人格がなく、同協会名義で登記することが法律上許されなかつたので、やむなく当時、同協会の会長であつた訴外ムハメード個人の名義で所有権移転登記を受けたものであるためにすぎない。

亡ムハメードは、一九七二年(昭和四七年)八月二二日に死亡し、現在トルコ協会の代表者の地位を失つているのであつて、本件土地につき登記名義を保持する根拠を有しない。

6  亡ムハメードについては、相続人のあることが明らかでないので、右死亡と共に相続財産法人が成立し、昭和四八年六月二〇日東京家庭裁判所の審判により、大輪威が同法人の相続財産管理人に選任された。

7  よつて、原告は、被告グルスムに対し、本件建物について所有権移転登記手続を、被告法人に対し、本件土地について所有権移転登記手続をなすことを求める。

二  原告の請求原因に対する認否

(被告グルスム)

1 請求原因1の事実は不知。

2 請求原因2、3の事実は否認する。

3 請求原因4の事実は認める。

(被告法人)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2の事実は否認する。但し、本件土地が山下の所有であつたことは認める。

3 請求原因5、6の事実のうち、本件土地が亡ムハメード名義で所有権移転登記がなされていること、同人が一九七二年(昭和四七年)八月二二日に死亡し、その相続財産管理人として大輪威が選任されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

三  参加人の請求原因

1  本件土地は、いずれも亡ムハメードが所有していたものである。その間の事情は次のとおりである。被告兼参加人グルスム・クルバンガリー(以下グルスムという)は、旧帝制ロシア領ペンザの、また亡ムハメードも同じく旧帝制ロシア領ヴアシキリアの出身で、ともにイスラム教を信奉するトルコタタール系の者であり、ロシア革命戦争に追われて、中華民国から日本へ亡命してきたものであるが、その間、一九二六年(大正一五年)六月三日、中華民国奉天において、イスラム教の適式な方式のもとに結婚し、直ちに日本へ入国し居住するようになつた。

亡ムハメードとグルムスは、日本において、イスラム教の布教活動に専念し、イスラム教徒のための寺院および学校の建設、ならびにそれらの運営にあたつていたところ、昭和一二年、当時ムハメード夫妻の右布教活動に関心をもち何かと援助をしてくれていた財界人の有志一〇名(当時の三菱銀行頭取瀬下清氏ほか九名)が、亡ムハメード個人の日本におけるイスラム教布教活動の功績をたたえて、同人の家を建てる資金として、一人一万円ずつ合計一〇万円の寄附をし、亡ムハメードは、右寄附金をもつて、昭和一二年八月六日山下亀三郎から本件土地を買受けたのである。

2  そしてその間、亡ムハメードとグルムスとの間には、参加人ナジヤ・アルマス(一九二八年(昭和三年)一月一一日生、以下参加人ナジヤという)同アニサーザイナシエフ(一九三〇年(昭和五年)一月二三日、以下参加人アニサという)、同アサド・クルバンガリー(一九三三年(昭和八年)一二月五日生、以下参加人アサドという)の三人の子供が生まれた。

一九三八年(昭和一三年)、亡ムハメードは、仕事の関係で、当時の満州国へ渡り、その後参加人ナジヤ、同アニサも父ムハメードのもとに遊びに行つたところ、戦争が激しくなり日本へ帰れなくなつて終戦をむかえた。

ところが、亡ムハメードは、そのまゝ満州にひきとどめられた後、ソ連邦へ拉致され、参加人ナジヤ、同アニサのみ昭和二九年ごろ日本へ帰つた。

グルスム、および参加人アサドは、終戦後まもなくトルコ国籍を取得し、参加人ナジヤ、同アニサも、日本へ帰つてまもなくトルコ国籍を取得し、その後、参加人アニサは、アメリカ人R・ザイナシエフ(米国籍)と結婚して米国へ渡り、参加人ナジヤは、トルコ人F・アルマス(トルコ国籍)と結婚して、トルコヘ渡り、それぞれ現在、肩書地に居住している。

3  亡ムハメードは、一九七二年(昭和四七年)八月二二日ソビエト連邦共和国チヤリヤビンスカヤ市において死亡したため、参加人等は、相続人として、本件土地の所有権を相続により取得した。

唯、ムハメードは、前記のとおり無国籍のまゝ日本を離れ、ソ連邦において死亡したものであるため(但し、死亡当時ソ連国籍を有していた)、参加人等には右相続関係を証明する戸籍等がないので困惑していた。

4  ところが、原告は東京家庭裁判所に対し、亡ムハメードの相続人の存否不明を理由として、財産管理人の選任を求める審判申立をし、昭和四八年六月二〇日同家庭裁判所において、相続財産管理人として大輪威が選任されるや、本件土地が、原告の代表するトルコ協会の所有に属すると主張して、被告法人に対し、所有権移転登記手続を求めている。

5  よつて、参加人らは、原告に対し本件土地が参加人らの参加請求の趣旨末尾に掲げた持分の割合による共有に属するものであることの確認を、また被告法人に対し、本件土地につき、相続を原因とする右持分による各所有権移転登記手続をなすことを求める。

四  原告の本案前の主張

参加人らは、本件土地が、亡ムハメードの相続人である参加人らの共有であるとして、原告に対し、その共有権の確認、被告法人に対しその所有権移転登記手続を求めている。

しかし、亡ムハメードには、相続人のあることが明らかでないため、相続財産法人が成立し、参加人主張のとおり東京家庭裁判所において、相続財産管理人が選任されているので、右亡ムハメードの相続財産は現在すべて右相続財産法人に帰属し、かつその管理および処分の権限は、民法九五三条、同二八条の制限のもとに右相続財産管理人に専属しているものである。

従つて、仮に参加人らがその主張のとおり真正の相続人であると仮定しても、参加人らは、現に亡ムハメードの相続財産につき、所有権・共有権はもとより一切の管理処分権限を有しないのであつて、自己の相続権・共有権等を主張して本件訴訟に当事者参加する適格も利益もないといわなければならない。

もつとも、将来仮に参加人らが真正の相続人であることが明らかになつたときには、相続財産法人は存立しなかつたものとみなされ、その場合相続財産管理人が権限内でなした行為は、真正の相続人を代理したものとして有効とされるが(民法九五五条)、少なくとも現在の段階では、参加人らも自認するとおり、同人らが真正の相続人であることを公証する文書は何もなく、さればこそ参加人らも相続財産法人の存立自体を否定せず、かえつてそれを前提として当事者参加の申出をしているのである。

しかし、そもそも相続財産法人の存立および管理人の権限自体「相続人のあることが明らかでない」ことを前提とするものであり、本件のごとく自称相続人が現われた場合でも相続財産管理人の権限には影響がなく、清算事務の進行はなんら妨げられないのであるから、本件参加申出自体明白な法律上の矛盾を包含するというべきである。

以上の理由により、本件参加申出は原・被告いずれとの関係においても、当事者参加の適法要件(当事者適格ないし参加の利益)を欠き、不適法としてただちに却下をまぬがれない。

五  参加人の請求原因に対する被告法人の認否

1  請求原因1の事実のうち、亡ムハメードがペンザの出身でイスラム教を信奉するものであつたこと、ロシヤ革命戦争を契機として日本へ亡命し居住するに至つたこと、その後日本においてイスラム教の布教活動に専念し、教徒のため寺院・学校の建設・運営を行なつてきたこと、日本財界人の有志の寄附を得て、参加人主張のとおり亡ムハメードが本件土地を取得するに至つたことは認めるが、その余の事実は不知。

2  同2の事実のうち、亡ムハメードが満州国へ渡つた後、ソ連邦へ赴いたことは認める、亡ムハメードとグルスムの間に参加人主張の三人の子供が生まれたことは否認する、その余の事実は不知。

3  同3の事実のうち、亡ムハメードがその主張の日時場所において死亡したことは認める、参加人らが亡ムハメードの相続人の地位にあることは争う、その余の事実は不知。

4  同4の事実は認める。

第三証拠〈省略〉

理由

一  本訴請求について

1  本件土地につき亡ムハメード名義で所有権移転登記がなされていること、本件建物につきグルスム名義で所有権保存登記がなされていること、本件土地が元山下亀三郎の所有であつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  そこで、本件土地建物の所有権の帰属につき判断するに、成立に争いのない甲第六号証の一ないし八、第七ないし第九号証、第一二号証の一、第一四、一五号証、第一六号証の一ないし二〇、同号証の二一の一ないし四(第一六号証各証は原本の存在も争いがない)、第一八、一九号証、第二二号証の一ないし三、第二三、二四号証、乙第五号証、第七号証の一、二、第八号証の一ないし三、証人アブドラ・モロゾの証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証、第一〇号証の一、二、第一一号証、証人テミンダル・モヒトの証言により真正に成立したものと認められる同第二号証の一ないし八、第三、四号証、第一三号証、第一七号証、第二〇号証、第二一号証の一ないし三、ならびに証人アブドラ・モロゾ、同テミンダル・モヒト、同椎名佐喜夫の各証言、および被告兼参加人グルスム・クルバンガリー本人供述によれば(但し、右椎名証言およびグルムス本人供述中後記措信しない部分を除く)、以下の各事実を認めることができる。

昭和初めごろ、亡ムハメードが中心となり、日本に亡命中のトルコ系回教徒のうち在京のものが集まり、宗教活動および子弟の教育、ならびに会員相互の親睦、相互扶助等を目的として東京回教徒団体(マハラ・イスラミヤ)を結成し、昭和五年には、同会員および同団体に協賛する人からの寄附や、銀行からの借入金により、同団体の本拠として、東京都渋谷区富ケ谷二丁目に一七九坪位の土地を取得し、同地上に木造二階建の回教学校校舎兼礼拝所を建築した。唯、同団体は、法人格を有しない団体であつたため、やむなく右土地建物の所有権移転および同保存各登記は、同団体の代表者であつた亡ムハメード名義によりなされた。

ところが、右東京回教徒団体の活動が盛んになると共に、右建物が狭すぎて右活動にも支障をきたすようになり、又独立の礼拝堂もなかつたところから、同団体においては、新らたに学校の校舎と礼拝堂を建築することになり、同団体の代表者であり、又日本の政財界に知人が多く、付合の広かつた亡ムハメードが右建築の資金集めを担当し、同人らの思想行動に賛同する一〇名位の日本人から計一一万円位の寄附を得て、昭和一二年八月六日山下亀三郎から本件土地を買い受け、直ちに同地上に右建物の建築に着工し、翌一三年三月には校舎(これが本件建物である)が、同年五月には礼拝堂が完成した。

右土地については、富ケ谷町の場合と同じく同団体の代表者である亡ムハメードの名義で所有権移転登記がなされたが、右建物については、特に必要もなかつたので所有権保存登記はなされないまま放置された。

ところで、亡ムハメードは、昭和一三年五月一二日に行われた右寺院(礼拝堂)落成式の直前になつて、後記とおり当時東京回教徒団体内部に紛争があり、そのため、亡ムハメードの存在が、当時日本政府のとつていた回教徒政策遂行の障害になると判断した同政府により、スパイ容疑という名目で、国外追放の処分を受けて満州(中国)へ追いやられ、今次大戦後は、満州に進駐してきたソ連軍により引続き一〇年間位シベリアに抑留された上、その後は同人が来日する前に居住していたソ連国内の旧家族のもとに帰り、結局昭和一三年五月日本を離れたまま一度も日本に帰ることなく、昭和四七年八月同地で死亡した。

その間、グルスムは、昭和二九年四月二一日に、東京回教徒団体(当時はトルコ協会と改称ずみ)に無断で、前記回教学校校舎である本件建物および礼拝堂につき、グルスム名義に所有権保存登記をし、うち礼拝堂については、グルスムも参加して昭和三六年四月に設立された宗教法人東京イスラム寺院に寄附したため、現在礼拝堂は同寺院の所有名義となつており、又前記富ケ谷の土地も今次大戦後グルスムにより、トルコ協会には無断で他に賃貸され、又その後他に売却されてしまつた。これらのことが原因となつて、グルスムは昭和四〇年トルコ協会から除名処分を受けている。

前記東京回教徒団体は、昭和八年に来日したアヤス・イスハキを支持する一派と亡ムハメードを支持する一派の対立抗争が激化し、遂に前者を中心とするイデル・ウラル・タタール文化協会と、後者を中心とするマハラ・イスラミヤに分裂したが、その後次第に両派の対立も緩和し、昭和二六年九月(一九五一年)には再び両派が合併し、昭和二八年(一九五三年)に東京トルコ協会と名称を改めて今日に至つている。

ところで、東京トルコ協会は、東京およびその近郊に居住する一八歳以上のトルコ人を正会員とし、トルコ民族の歴史、文化、宗教、および市民的存在の保持ならびに高揚を目的とする団体であり、年一回定期総会が開かれて、多数決の原則のもとに、会長、副会長、会計、理事、監事等役員の選出や、予算の決議が行われ、その構成員の変更にかかわらず、団体として存続してきたものであり、又会長が協会を代表して会務の処理に当り、その他総会の運営、財産の管理の大綱についてもその規約において定めがなされている。

以上の各事実を肯認することができる。

証人三宅仙太郎、同椎名佐喜夫、および被告兼参加人グルスムは、本件土地建物を取得するに当つて日本の財界人から受けた寄附金は、トルコ協会(当時東京回教徒団体)に対してなされたものではなく、亡ムハメード個人に対しなされたものであり、従つて右物件も同人の所有であつた旨の供述をなし、これと同趣旨の成立に争いのない乙第三号証、第六号証、第一〇号証の一、二、右三宅証言により真正に成立したものと認められる第一号証も存在する。

たしかに、前記認定のとおり、右物件取得の資金集めを担当したのは、亡ムハメードであり、又醵金者も、亡ムハメードの所属する東京回教徒団体よりは、むしろ知人である亡ムハメード個人の人柄やその思想行動を信頼して醵金する気持になつたであろうことは十分想像できるのであるが、亡ムハメードは寄附を求めるに当つては、当然右団体の存在、目的さらに寄附金の使途についても詳細に述べて了解を得ている筈であると思われるし、又亡ムハメードが寄附金集めについて果した役割、右団体における亡ムハメードの地位、寄附金の使途を考えると、醵金者が亡ムハメードの依頼に応じて寄附をするに至つた動機と、その寄附金の帰属とは、又別個の問題というべきであり、右寄附金により建てられた学校や礼拝堂は、本来東京回教徒団体が会員のために共同管理使用すべきものであるのに、それが一会員個人の所有であるとするのは、仮令その者が権利能力なき団体の主宰者的地位にあるとしても納得しがたいことといわなければならず、前掲各証拠によれば、右建物の落成式も同団体の行事として挙行されており、又右建物の火災保険も同団体が被保険者として契約されていることも認められるのであつて、これらの各事情や、前掲各証拠とも対比すれば、本件物件が亡ムハメードの所有であつたとする右各証拠は到底信用できないといわざるを得ない。他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件土地建物の所有権は、権利能力なき社団である東京トルコ協会に帰属(その構成員の総有)しているというべきであり、従つて、同協会の代表者である原告は、その構成員全員の受託者としての地位において、右土地建物につき、現に登記名義を有する被告らに対し、所有権移転登記を求める権利を有しているといわなければならない。

3  よつて、原告の被告両名に対する本訴請求は理由がある。

二  参加請求について

昭和四七年八月二二日亡ムハメードがソ連国内において死亡したこと、同人の相続人の存否が不明であるとして、昭和四八年六月二〇日東京家庭裁判所において、大輪威がその相続財産管理人に選任されたことは、当事者間に争いがない。

ところで、被相続人の死亡当時、相続人の存否が不明であれば、被相続人の財産は法人となり、家庭裁判所により選任された相続財産管理人が、法に従つて財産の管理清算を行うのであるが、のち相続人が存在していることが明らかになつたときには、右法人は相続開始時に遡つて消滅し、その間相続財産管理人がその権限内においてなした行為は、すべて有効なものとして取扱われることになつている(民法九五五条)。従つて、本訴においても、もし参加人らが亡ムハメードの相続人であることが立証されたときには、同相続財産法人は存在しなかつたものとみなされる結果、同法人は被告としての適格を失い、参加人が被告法人のなした訴訟行為を引継いだ上、被告として本訴を追行することになる。すなわち、本訴において、参加人らは、相続により本件土地を亡ムハメードから取得したことを前提として主張する以上、参加人らが同人の相続人であることが証明されたときには、参加人らは被告として本訴を追行すべきものであり、又もしその証明がなされ得ないときには、参加人らは、本件訴訟には全く関係のない第三者にすぎないことになるのであつて、いずれにしても参加人らを民訴法七一条の第三者にあたると認めることはできないといわなければならない。

従つて、参加人らの参加申立は、民訴法七一条の参加申立としては、その要件を欠くので不適法として却下を免れない。

ところで、本件参加申立のうち、被告法人に対する請求部分は、前記判示のとおり、そもそも無意味なものというべきであるが、原告に対する請求部分は、参加人らが亡ムハメードの相続人として本件訴訟を承継すべき場合には、別訴(又は反訴)として処理し得る余地があるとも考えられるので、以下この点について検討する。

参加人らが亡ムハメードの妻子であるとする参加人らの主張を支持する証拠として、前掲証人モロゾ、同椎名、同三宅およびグルスム本人の各供述がある。しかし、参加人自身も主張するとおり、参加人らがトルコ国籍を有しており、又亡ムハメードも無国籍者として日本に亡命していたものであり、死亡当時ソ連国籍を取得していたこともあつて、参加人らと亡ムハメードとの身分関係を確認するのに最も重要な証拠となる戸籍関係書類がないばかりでなく、現在東京地方裁判所において、参加人らが原告となり、本訴の被告法人を被告として、同地裁昭和四八年(ワ)第七九五九号相続人地位確認請求事件が係属中であり、現に未だ被告法人の相続財産管理人選任の審判の取消もなされていないのであつて、かかる事情のもとにおいては、未だ参加人らが亡ムハメードの相続人であること、すなわち亡ムハメードにつき相続人のあることが明らかになつたということはできず、少くとも参加人らの身分関係が確定するまでの間、法人としての相続財産は消滅せず、本訴を追行する権限と責務を有するものと解するのが相当である。

従つて、本訴において、被告適格を有するものは、参加人ではなく、右相続財産法人であるから、参加人らの原告に対する請求を別訴として取扱うこともできないというほかはない。

なお、仮に参加人らの参加請求を別訴として取扱うことができるとしても、前記本訴請求について判断したとおり、本件土地は亡ムハメードの所有ではないのであるから、その請求は棄却を免れない。唯、参加人らは、右土地所有権の帰属をめぐり利害関係を有するものであることは明らかであるから、参加人の参加申立を補助参加として取扱うことは可能であると考えられる。

三  結論

よつて、原告の本訴請求は、理由があるのでこれを認容し、参加人の参加請求はこれを却下し、訴訟費用の負担については、八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福富昌昭)

(別紙) 物件目録(一)・(二)〈省略〉

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